2023年度町家デザインコンペティションでは全国から多数の応募をいただき、様々な背景を持つ方から多種多様な活用のアイディアを提案・応募いただきました。そんな中で、優れた応募作により受賞された方のコメントをご紹介し、また受賞後にどのような活動をされているのかもご紹介する企画です。
今回はシニアコースにて最優秀賞を受賞された金子豪太 さん、近藤誠之介さん、大町有香子さんをご紹介いたします。
シニアコース 最優秀賞
受賞者:金子豪太 さん、近藤誠之介さん、大町有香子さん
金子豪太 さん、近藤誠之介さん 京都工芸繊維大学大学院
大町有香子さん 京都工芸繊維大学
以下、敬称省略、順不同
-提出作品について、問題提議と提案のポイントを教えてください。
(金子)多様な評価軸をどうまとめるかが常に頭を悩ませていましたが、最終的には、その多様さ自体を肯定することが現代的な価値観ではないかと思い直し、『多様ないきづかい』へと繋がったように感じます。そういった姿勢で改めて点群スキャンを見た時に、細かいモノスケールまで撮影された多様で雑多な映像に可能性を感じるとともに、撮影できずにざっくりと抜け落ちている「ウラ」の箇所が散見されることが相対的に際立って見え、『町家のウラオモテ』に繋がりました。
(近藤)提供された点群データを、単なるビジュアライズに留めず、より実践的に活用することを目指しました。その結果、3つのスケールでの点群活用を達成できたと考えます。特に空間スケールで、点群データから作成した町家の3Dモデルに基づき、環境解析を行うことで、本来点群データが持たない自然光による明るさの変化・風の吹抜けという時間的要素を加味し、そこから各室の使い方が浮上するチャレンジングな提案となりました。
(大町)点群データを実際の建築や空間の提案にどう活かしていくかを考える中で、近づくにつれて把握しづらくなる抽象画のような一面や、密度によって見え方が変わるテキスタイルのような一面を表現したいと思いました。点群の転写や解析に基づいた展示等、展示空間である京町家の什器や建材と、展示物である伝統工芸品の両方にアプローチすることで、新たな鑑賞体験を提案できたと考えています。
建築に興味を持ったキッカケ
-建築に興味をもたれたキッカケなどはありますか?
(金子)もともと寺社仏閣や城が好きで、高校生の頃は大学では文系として歴史研究をしたいと考えていました。しかし、私が通っていた高校では理系に進む人が多く、進路に迷った結果、先生から「建築史という分野があり、理系で学びながら歴史の勉強ができる」と教えていただき、理系に留まり、建築学科を目指すことになりました。大学で建築を学ぶ中で、建築は理系や文系にとらわれない総合的なものだと認識し直しましたが、振り返ってみて良い決断だったと感じています。
(近藤)私の祖父は建築の意匠設計者でした。子供の頃、祖父に京都市内の寺社へ連れて行ってもらい、いろいろと説明を受ける中で、当時は理解しきれないながらも興味を持ったことが、建築への関心を持つきっかけの一つとなりました。
(大町)私の両親が建築関係の職をしていて、幼いころから様々な建築に連れて行ってもらっていました。特に、地元が岡山だったこともあり、瀬戸内国際芸術祭にはよく連れて行ってもらっていました。そこで見た地中美術館や犬島精練所、豊島美術館は建築士になりたいと思うきっかけになった作品です。
コンペに参加した経緯
-今回のコンペへ応募された経緯などを教えてください。
(金子)初めてコンペサイトを拝見した際に最も強く印象を受けたのは、評価軸が多様に設定されていることでした。町家の利活用(改修ではなく利活用)、コミュニティ施設の提案、オンライン化の考慮、さらには3D点群スキャンを用いること、祇園祭のお囃子の練習会場として利用すること...など、正直に言うと、その多様さに困惑しました。一方で、これだけのたくさんの要素を総合的にまとめ上げることこそに挑戦の意義を感じましたし、多様ゆえに各々専門分野をもった近藤、大町と共同することに意味を感じ、応募することに決めました。
(近藤)研究室で、町家の増改築の来歴を環境解析を通して記述するプロジェクトに取り組む一方、金子と共に福井県の伝建地区を点群スキャンを用いて調査する大学のプロジェクトにも参加しました。これらの経験を通じて、もともと町家や点群技術に関心を持っていたことから、今回のコンペに出会い、応募しました。
(大町)先輩方に誘っていただき、私自身も京都で建築を学んでいるので京町家を対象にした設計はずっとやってみたいと思っていたので参加させていただくことにしました。点群をどのように扱えばよいのか、初めは苦戦していましたが、段々と奥深さに惹かれていきました。デジタル系は今まで避けてきていましたが、今回のコンペをきっかけに取り組むことが出来、その後研究室で画像生成AIを用いた設計手法の探求を行うなど、自分の設計に対する考え方の幅が広がって言っているのを感じています。
受賞のその後
-現在及び今後の活動の展望をお聞かせください。
(金子)これまで多くのコンペに参加してデザイン提案を行ってきましたが、それらの経験を経て、提案が単にコンペのフォーマット上だけで終わるのではなく、その提案を契機に、実際に社会に還元される成果に繋げたいと強く思うようになりました。現在は、コンペのためだけではなく、現実社会でも通用するフォーマットを整えています。
(近藤)最近の活動として、解体される町家・民家の部材をレスキューして3Dスキャン・デジタルファブリケーションを通して再利用するシステム設計と、システムを利用したプロトタイプの実制作に、所属研究室の一員として取り組みました。今後、実制作を通して手を動かす中で生まれる発見と、今回のコンペで扱ったような空間・環境的なテーマをトータルに繋げた活動を行っていきたいと考えています。
(大町)現在は植物と建築の関係性に関心があり、日々変化する植物を点群としてアーカイブし研究を行っていくことに可能性を感じているので、来年度以降、修士課程で研究を進めていけたらと考えています。
まとめ
次回以降のコンペ内容に運営として気になるお話や、
これから参加する後続の方々へ後押しになるお話をいただきました。
多忙な中、大変丁寧な回答をいただき、
金子豪太 さん、近藤誠之介さん、大町有香子さん3名のこれからの活躍に期待しています。
ありがとうございました。
(編集・山家一晟)